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キミトピア

キミトピア

『ユートピア』を何となく『YOUTOPIA』だと思い込んでいて、大好きなあなたと一緒にいられるのならそりゃその場所は楽園だわなと考えていた。《君とピア》の《ピア》が何のことかは判らないけれど語感は明るいし何だか可愛いし。

でも君が笑って指摘する。

『ユートピア』は『UTOPIA』で、イギリスの政治家トマス・モーアが 16 世紀初頭に書いた小説のタイトルで、理想郷としての共産主義社会のことだし、語源としては『どこにもない場所』になるんだよ、と。

え、ちょっと、何その余計な蘊蓄。

僕は言う。

じゃあ僕のキミトピアはユートピアじゃなくてその反対だな。

僕と君が一緒にいる場所はひたすら現実的な場所だもんね。政治は常に完璧なんかとは程遠いし、人の気持ちも考えもはっきりしないし落ち着かないし、正しいも間違いも曖昧だもんね。

舞城王太郎の新作短編集。もうタイトルがズルい。天才かよって思った。『やさしナリン』という短編のタイトルも良い。いずれの作品も何らかの出来事に巻き込まれた主人公が饒舌に思弁を繰り広げるといった内容なのだけど、ふだんよりも随分読みやすい文体になっていると感じた。一方で内省的な作品が多いこともあってこれまでよりも明確に作者のメッセージを感じることが出来たし、『やさしナリン』を筆頭に舞城王太郎という作家の感性にますます驚かされた。『美味しいシャワーヘッド』なんかは印象的な場面も多く、今まさにここにある『キミトピア』と現実との鬩ぎ合いを読むにつけ、なんだかこれこそが今ぼくらが必要としている物語なんじゃないかと思うのだった。

思い出も思いも空想も行われなかったことも秘密も、全部言葉で語られるが、言葉にされない物事もある。言葉では掬いきれない小さな、細やかないろいろだ。でもそれらは記憶に残っていないんじゃなくて言葉にできないだけで、全部僕の中にあるはずだ。