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Usotsuki Online

Do you believe in the magic of make-believe ?

下層がショッピングフロアになっているオフィスビルを出ると生ぬるい風がゆっくりと睨めつけるように僕を見ながら目の前を通り過ぎて行った。もうすぐ春が来るんだと言いたげなその表情を眺めてひっそりと嘆息する。僕はいつだって季節の変わり目を恐れている。改札を通り抜け満員に近い電車に乗り、自宅近くの駅を出ると今度は小雨が降っていて、それは微熱を孕んだ風と混じり合って飽和していた。何もかもが遠い。すぐそこにあるはずのファミリーマートが、書店の入り口が、TSUTAYA の看板が遠い。店を取り囲む電球の光が滲み、歩いても歩いてもそこに辿り漬けない気がした。飽和して混じり合った先にあるのは一体化ではなくただひたすらに無為な空間の連なりで、その向こうにある未来のことなんてまるで信じられない気がした。むしろ僕の目が見るのは過去だ。無限に連なるグラデーションを眺めるうちに逐次的認識は崩れ、世界は様相を変えて立ち現れる。それは 7 年前に沖縄のコンドミニアムで迎えた朝の出来事で、窓の向こうに彼女が見える。ぬるい風が吹いてカーテンを揺らし、まだ寝ぼけ顔の空気は朝陽を浴びて飛び回る。白い布に隠された彼女の目元、少し上がった口角の右上には小さな黒子が見え、色白とは言えない肩の向こうに瞬く燦めきが穏やかなハレーションを引き起して周囲一面に光を散逸させ、僕の視界は白に染まった。