Usotsuki Online

Do you believe in the magic of make-believe ?

〈了解しました。アラトさんのデザインされた方向へ、これより "未来" を誘導します〉

仕事が速く片付いたのでさっさと帰宅して『BEATLESS』を読んだ。

人工知性が人類の知性を上回るシンギュラリティを迎えてから 50 年、自分よりも高度な知性を持つ超高度 AI を「使って」築き上げた、高度に自動化された社会で生きる人類。そんなある日、平凡な男子高校生である主人公の元に美少女型アンドロイドが現れる。実は彼女は〈人類未到産物〉と呼ばれる存在だったのだが──というプロットだけ読むと「これ完全にラノベじゃねーか」と言わざるを得ない作品で、多分にその方面の要素を含んでいる。主題は「ボーイ・ミーツ・ガール」であり、人間とモノの関係という古典的なテーマもあれば、〈人類未到産物〉ひいては〈超高度 AI〉同士の闘いもあり、アニメのように楽しむことも出来る。

BEATLESS

BEATLESS

一方で本作は「人類よりも高度な知性を持つ AI が存在する」という未来社会を描いた SF 大作でもある。自動化が進み、あらゆることを hIE(human Interface Elements:人型ロボット)が補助してくれる社会では、当然ながら人間よりも AI の方が何もかも上手くやってのけることが出来る。介護・会社経営のみならず、この世界では政治ですら hIE を使って処理しようとしている。本作には「アナログハック(本来 hIE の行動に「意味」は無いが、ヒトという「カタチ」を持った人工知性の振る舞いに「意味」を見出してしまい、行為や意識のセキュリティホールを突いて誘導されてしまうこと)」という用語も存在し、自分の行為が果たして本当に自らの意思によるものかを判別することも難しい。では果たしてそのような世界で人間の存在意義とは何なのか。人間には人工知性には無い「心」があるが、「心」を持つ「意味」は何なのか──そんな問いかけを作者は偏執的なまでに繰り返す。果たして主人公が出す答えは、人類の未来をつくるものなのか。ここで出される結論は例えば『幼年期の終わり』のようにラディカルなものではない。けれど人間の意識を──世界を変えるものだった。内容は本を読んでみてほしい。

上下 2 段組 650 ページと文庫本なら 3 分冊はされそうなボリュームだけど、SF とラノベ的要素が上手くマッチしていて読んでいて楽しい作品だった。ただ、前作『あなたのための物語』を読んだときも思ったのだけど、些か文章が読みづらい。文体が硬いとか密度が高過ぎるとかそういう問題ではなく、読者と作者の間でコンテキストが共有されていないところが多い。描写が雑なのにハイコンテクストな会話をされても読者は付いて来ることが出来ない。その点は次回修正されていると良いなと思う。いずれにしても次回作が楽しみ。