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Do you believe in the magic of make-believe ?

SDIM1642

週の半ばに風邪をひいてしまい一日会社を休んでしまった。こういうとき、ひとり暮らしは少々寂しい。

三連休なので旅行に行きたかったのだけど、中日に用事があり断念した。昨日は午後から丸の内に出掛ける用事があり、夜に友人と会うまで時間があったのでその間少し会社に行って思いついたアイディアを試していた。銀座で友人と食事をしてから帰宅し、のんびりとテレビを見ながら過ごした。今日は朝から本を読んだり家事をしたりした後、夜は渋谷で友人と会って食事をしたりボウリングをするなどした(ボウリングなんてするのは数年振り)。会う度に「もう良い歳だよね」と言い合っている気がする。

メモリー・ウォール (新潮クレスト・ブックス)

メモリー・ウォール (新潮クレスト・ブックス)

最近読んだ中でも抜群に面白かったのがアンソニー・ドーア『メモリー・ウォール』。数年前に短編を読んで「巧い作家だなぁ」と気になっていたのだけど、この短編集を読んで改めて「巧いだけじゃない、凄い作家だ」と思い直すことになった。〈記憶〉に纏わる短編集、と一言で片付けるには惜しい珠玉の小品が並んでいる。

まず描写が素晴らしく美しい。ただ文章を読むだけで幸せな気分になる作家というのは少ない。例えば僕はスコット・フィッツジェラルドの文章がとても好きだけど、アンソニー・ドーアの文章は、フィッツジェラルドのそれとはまた違った趣の──まるで夢の中を漂うような、けれど確かな「リアルさ」を感じる──文章である。それが何だか作者自身の肌感覚というか、視線に寄り添っているように感じられるのだ。世界を見つめる作者の眼差しは静謐だけれど雄大で、人々の営為や自然の中に潜む豊穣な美しさを見事に見出している。

ここが英雄公園。ここがイチョウ並木、暗闇で行列している。ここが古い獅子像。五世紀にわたって子どもを乗せてきたので、背中がつるつるだ。満月の夜、獅子は生命を得て村を歩きまわり、窓をのぞきこみ、木を嗅ぐ、と母は言っていた。

辺りには霧がたなびき、月光がミルクのように注ぐ。いつもかならず、夜明けの光が射す前に、獅子はそっと台座に戻り、前足を重ねて、ふたたび石に戻る。

〈記憶〉に纏わるエピソードはノスタルジーとセンチメンタルから逃れられない。例えば『来世』冒頭で示される少女達の姿は冷たい美しさを放っていて忘れ難い。けれどこの作品が素晴らしいのは、記憶に対する悲哀や郷愁だけでなく、記憶が残され、引き継がれ、世代を超えて乗り越えられてゆくという希望を描いているところだと思う。個人的には『ネムナス川』『来世』が素晴らしいと感じたが、いずれの作品も心に響く名品揃いの短編集だった。